2018年日本のトップ飲料メーカの1社、「サントリー」の飲料売上が約1380億円。しかし、たった一つの商品で約6600億円もの売り上げを上げ、世界の飲料メーカーのトップ、コカ・コーラすらも恐れさせたという企業をご存知でしょうか。
その会社は、33年前にタイで生まれ、今や世界160カ国以上で販売されています。その企業とは『レッドブル』。ビジネスマンであれば、目にした事や飲んだ事のある方も多いと思います。
こんなにも成長している企業ですが、新たな商品開発はほとんど行なっておりません。それどころか生産や物流を自社では行わず、自社の「工場・倉庫・トラック」すら持っていません。
『レッドブル』は、いったい何をして、そして何をしなかったのでしょうか。
(2020年3月23日 企画推進室)
エナジードリンクの市場
エナジードリンク市場の状況を少しおさらいしてみましょう。
この市場、もともとは大正製薬の「リポビタンD」がトップを走っていました。「リポビタンD」は1962年に発売され『疲労回復』をウリにして大ヒット、日本だけにとどまらずタイを中心として東南アジアでも「リポビタンD」が広く普及しました。
20年以上前に、「リポビタンD」から強い影響を受けたというオーストリア人が開発した、新しいエナジードリンク(栄養ドリンク)が「レッドブル」です。(「レッドブル」の元祖はタイですが、オーストリア人が国際的な販売権を獲得し、「リポビタンD」に影響を受けて改良したとの事です)
しかし現在、「リポビタンD」の売上は338億円しかありません。
レッドブルのたった20分の1程度と、大きな差が生まれてしまいました。なぜこのような差がが生まれてしまったのでしょうか。
レッドブルが止めた事
レッドブルは、普通のメーカーが普通に行っている事を止めました。そして別の事に全力を費やしたのです。
一体何を止めて、何に全力を投入したのでしょうか?
止めたのは「生産」と「物流」。
多くの飲料メーカーが、商品の生産から物流まで行っている所を、レッドブルは全て外注しました。
その変わり、徹底的に『マーケティング』を行いました。
レッドブルというのは、飲料メーカーではなく、マーケティングしかしない会社なんです。普通の企業なら、広告は広告代理店に任せます。「餅は餅屋」の考え方ですね。しかし、レッドブルはそれをしませんでした。
それどころか、創業当時からずっと、売上の3分の1を広告費に費やしています。
あの有名なレッドブルの「キャッチコピー」、決まるまでに1年半かかったとの事です。
その間、マーケティング担当者は、50個以上の案を持っていったが、社長は首を縦に振らなかったそうです。
なぜレッドブルが成功できたのか
レッドブルは特別な効果があるような飲み物ではありません。技術的に特に優れているという訳でもありません。
なぜこんなにも爆発的にヒットしたかと問われれば、「効果的なマーケティングを打ち続けてきた」からです。
企業の戦略と言えば、極論すれば限られたリソースをどのように割り振るかです。人や設備や資金。これをどの分野に投入するか。
そして、レッドブルは非常にシンプルに、マーケティングに全力を尽くし、それ以外を徹底的にやめた訳です。
レッドブルは、どんなに成長を遂げても、上場しないという方針を貫いています。
「やる事」と「やらない事」をはっきりさせ、「やる事」に全力投球するというのは非常にシンプルですが、他の企業ではなかなかできません。もし、上場していれば投資家からの圧力で、こういう戦略は取れないかもしれません。
レッドブルから学ぶ事は非常に多くあります。
ブランド、マーケティングの重要性。そして何に注力し、何を止めるべきか。
これは個人であっても、同じことが言えるかもしれません。やるべき事と止める事を決め、やるべき事に全力を注ぐ。
もちろん、言うほど簡単な事でないのは、企業でも個人でも同じですけどね。