「幸せ」とはいったい何でしょうか。そんな「幸福」を研究した学問として「ポジティブ心理学」というものがあります。「ポジティブシンキング」と言えば、ポジティブに考えれば全て上手く行く、というようなイメージがありますが、「ポジティブ心理学」は、そういった「ポジティブシンキング」とは全く異なる学問なのです。今回は、その「ポジティブ心理学」より、人間関係についてご紹介いたします。
(2020年11月24日 企画推進室)
充実した人生をつくるためには
幸せな隠者はいない
ポジティブ心理学とは、アメリカの心理学者マーティン・セリグマンによって提唱されました。その後、多くの学者が専門的にいろいろなテーマで研究した内容を全て含んだものを指します。
その範囲は多岐に渡りますが、人間関係の研究で分かった事の一つが、「幸せな隠者はいない」という事です。
この言葉を裏返すと、幸せには人間関係が大きく影響している、という事なのです。
端的な例で言いますと、良好な人間関係が築けている人は、精神面だけではなく、身体的な面でもよりよい影響を受けており、心臓や血管などの循環器系や神経内分泌、免疫システムが活性化される事がわかっています。
心臓発作を起こしたあとの6カ月間に感情面での支えがあった人は、そうでない人に比べて生存率が3倍も高くなったという調査もあります。
人間関係は必ずしも楽しいことばかりではありません。イライラすることもあるでしょうし、傷つく事もあります。独りの方が気楽だと思う事も多いかもしれません。
しかし、そういうストレス以上に、誰かといることで人は成長し、長く幸せを感じられます。それは良く知っている人だけではなく、たまたまその瞬間に同じ場に人がいるだけで良い感情が高まるという実験結果もあるのです。
幸せの波及効果
昨今、リモートでの仕事が多くなり、人との関りが少なくなって、何となく感情面で不安定になるという事はないでしょうか。あなたが思っている以上に、人は他人の幸せの感情に影響を受けるものなのです。
幸せがどのくらい波及するのか、という調査をハーバード大学が行っています。
あたなが幸せだとすると、「直接の知り合い」の幸福度が平均して15%上昇します。そして、「友達の友達」の幸福度は平均して10%上昇し、「友達の友達の友達」の幸福度は平均して6%上昇するというのです。
この「幸福の波及効果」は非常に広大で、見知らぬ人のためにドアを開けてあげる、募金する、といった事でも、幸福は波及していくとも言えます。
SNSが発達した現在においては、この波及効果、幸福の連鎖はより多くの人に広がっていくと言えるでしょう。そして、あなたの周りの人が幸せになっていくと、回りまわって自分の幸福度も上がっていくと言えるのではないでしょうか。
孤独を愛する事
では、孤独を愛する事はいけない事なのでしょうか。
一人の時間を楽しむこと、自分と向き合う時間を作る事は大切なことです。しかし、それと同時に、充実した人生をつくるためには、人間関係も大切だという事なのです。
次のような調査結果があります。
「幸福感の高い人は、そうでない人に比べ、公私ともに人間関係が充実している」
「友人や社会を支援する傾向のある人は、より幸福度が高い」
結局、幸福に一番影響をあたえるものは、人間関係であるという事が調査結果から明確になっているのです。
しかし、無理をして多くの人と関わっていく必要がある、という事ではありません。「社交的な自分を演じなくても周囲の人に対する思いやりの気持ちを持つだけで、幸福感を高められるという」という調査結果もあります。
「情けは人のためならず」とは「人に対して情けを掛けておけば,巡り巡って自分に良い報いが返ってくるという意味」らしいのですが、広い視野に立って幸福の波及効果を考えると、他人を思いやる事が自分の幸せの第一歩だと言えるのではないでしょうか。