なぜパワハラは無くならないのか?/企画推進室

厚生労働省は6月26日に「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表しました。「個別労働紛争解決制度」とは、働く人と会社との間のトラブルを未然に防止し、早期に解決を図るための制度とされており、「総合労働相談」や「助言・指導」などを行ってくれます。

どういった相談が行われているのか、見ていきたいと思います。

(2019年9月9日 企画推進室)

「いじめ・嫌がらせ」に関する民事上の個別労働紛争の相談件数が過去最高

過重労働(長時間労働)、違法残業、ブラック企業といったニュースを度々見るようになりました。労働者の自殺や過労死といった事件も起こり、働き方改革について叫ばれるようになっています。

しかし、公表された「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、

  • 総合労働相談件数は111万7,983件で、11年連続で100万件を超え
  • 個別労働紛争の相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数の全てで、「いじめ・嫌がらせ」が過去最高

との事です。

いったいどんな相談が寄せられているのか見てみましょう。

事例1

申出人は正社員として勤務していたが、上司から「バカ」「クズ」等といった侮辱的な発言や人を見下した言葉で詰め寄ってくるといった暴言などを日常的に受けている。責任者に相談し、対応を約束してもらったものの、調査や指導が適切に行われず、改善していない。

 

事例2

申請人は、正社員として勤務していたが、職場の先輩から蹴られたり、腹部を殴られたりといった暴行や、申出人に聞こえるように「早く仕事を辞めてほしい」「いなくなってほしい」といった暴言を日常的に受けていた上司も近くで見ていたが、見て見ぬ振りをして相談にのってもらえず、指導等の対応もしてもらえなかった。

 

まだ、このような事が公然と行われている会社が存在するのが日本の現実なのです。こういった事実を知りながら、放置しているような経営者は会社を経営するべきでは無いでしょう。また、そのような能力もないと言わざるを得ません

主な相談内容別の件数推移(10年間)

ここで、主な相談内容別の件数推移を見てみましょう。

個別労働紛争解決制度|主な相談内容別の件数推移

いじめ・嫌がらせに関する件数がうなぎのぼりで断トツです。

過重労働(長時間労働)、違法残業といった問題がクローズアップされていますが、今職場の問題として一番取り上げなければいけないのは、こういった「いじめ・嫌がらせ」の問題、特に俗にいう「パワハラ」なのかもしれません。

職人の修行に代表されるように、「厳しくされる事で成長する」という事が「日本人の美徳」としてあるのも事実です。

しかし、「仕事に厳しい=プロフェッショナルとしての成果を求める」事と「いじめ・嫌がらせ=パワハラ」とは全く異なります。ここには「言い方」や「双方の信頼関係」という事では改善できない問題があります。

では、どうしてパワハラは無くならないのでしょうか。

スタンフォード監獄実験

アメリカ合衆国のスタンフォード大学で行われた、興味深い実験があります。

新聞広告などで集めた普通の大学生などの70人から選ばれた被験者21人の内、11人を看守役に、10人を受刑者役にグループ分けし、それぞれの役割を実際の刑務所に近い設備を作って演じさせた。その結果、時間が経つに連れ、看守役の被験者はより看守らしく、受刑者役の被験者はより受刑者らしい行動をとるようになるということが証明された

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

看守役の人が、徐々に受刑者を虐めていくようになっていったという実験結果です。

  •  1日3回と決められていた点呼を真夜中にも開始。
  • 夜間のトイレの使用を禁止し、バケツにするよう指示。汚物は朝までそのまま放置された。
  • トイレットペーパーの切れ端だけでトイレ掃除をさせる
  • 従順でないものは狭い独房に監禁するようになった。
  • 受刑者役を四つん這いにして動物の性行為の真似を強要する

最終的には受刑者役の二人がストレス障害になり、実験は打ち切られました。

人間は、その状況によって簡単に悪魔になってしまうという事が示唆された実験です。

 

一方で、後に行われたBBC監獄実験では大きく異なる結果となっており、ニューサウスウェールズ大学では一部同様な結果が出ているとの事で、この実験の真偽については明確になっていません。

しかし、心理学的に「同調現象」というものは存在します。

同調現象が起きると、異論は歓迎されない。ただ、「みんな」の意見を補強する意見のみが歓迎される。そして、異論に対しては、論理で反論するのではなく、個人攻撃・人身攻撃で反論され、沈黙を強制される(同調圧力)。また、周囲を見回し、自分に異論があっても、他に異論がないようならば、異論の表明を控える(自己検閲)。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

会社や上司が「ある雰囲気」を作ってしまい、それに同調できないものを攻撃する、という事象は普通に起こりえるのです。つまり、「パワハラ」は個人が作るのではなく組織が作るといっても過言ではありません。

どうすればパワハラをなくせるか

パワハラが無くならない第1の理由は、ハラスメントを行う側の「無知」や「無自覚」、「想像力の欠如」です。どういった行為が「パワハラ」に該当するのかを知らず、自分がハラスメントをしているという自覚が無く、自分が同じ事を行われたらどう思うか、という想像力が欠けているのです。

第2の理由としては、先ほど書いたようにハラスメントを生み出しているのが「組織」であり、ハラスメントを行っている空気に皆が「同調」してしまっているという事です。

 

当然、「ハラスメントに関する研修」は大切です。しかしそれだけでは第1の理由しか解決できません。

何でも言える組織を作る事、ハラスメントをされていると声をあげられる仕組みを作る事。こういった組織を作っていく事が重要であり、これは会社としての責任では無いでしょうか。

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