システムエンジニアやプログラマーといった職についている会社員のみならず、IT系資格試験として特に知名度の高い情報処理技術者試験。システム開発の現場では「合格しても資格手当以上のメリットがない」とささやかれる事も多いこの試験ですが、実際合格するとメリットがあるのでしょうか。
(2018年10月6日 企画推進室)
(2019年6月20日 企画推進室 更新)
目次
1.データで見る情報処理技術者試験
まずは、受験者に関する情報を見てみましょう。
受験者数推移
H21年度:440,324 人
H23年度:402,384 人
H25年度:331,834 人
H27年度:328,101 人
H28年度:368,591 人
H29年度:345,232 人
H30年度:356,863 人
ずっと減少傾向にあったのですが、平成28年度以降やや盛り返し傾向にあります。
応募者数前年比
平成29年度秋期試験
情報セキマネ:-5.8
基本情報技術:2.2
応用情報技術:-3.6
ITストラテ:4.6
アーキテクト:6.4
ネットワーク:8.1
情報セキスペ:-27.9
ITサービス:9.5
平成30年度春期試験
情報セキマネ:-8.8
基本情報技術:8.6
応用情報技術:-0.2
プロジェクト:-0.4
データベース:-3.1
エンベデッド:1.2
情報セキスペ:-7.8
システム監査:2.5
平成31年度春期試験
情報セキマネ:-6.1
基本情報技術:5.3
応用情報技術:-0.9
プロジェクト:-3.4
データベース:-1.9
エンベデッド:4.6
情報セキスペ:-4.3
システム監査:-1.8
全体的に増加傾向にありながら、人気にバラつきがあることがわかります。基本情報処理技術者の人気は安定ですね。
合格率
平成29年度秋期試験
情報セキマネ:50.4%
基本情報技術:21.8%
応用情報技術:21.8%
ITストラテ:14.7%
アーキテクト:12.7%
ネットワーク:13.6%
情報セキスペ:17.1%
ITサービス:13.6%
平成30年度春期試験
情報セキマネ:53.7%
基本情報技術:28.9%
応用情報技術:22.7%
プロジェクト:13.2%
データベース:13.9%
エンベデッド:17.8%
情報セキスペ:16.9%
システム監査:14.4%
情報セキュリティマネジメント試験は、情報システムの利用部門向け試験だけあって、比較的難易度が低めに設定されています。それ以外の試験は基本情報処理技術者試験ですら30%を切る、難易度の高い試験と言えるでしょう。情報系未経験者で合格するのは難しいと言えます。そんな方には、まずITパスポート試験を受験する事をお薦めします。
2.ITエンジニアとして、何はともあれ基本情報
ITエンジニアとしてキャリアをスタートするには、まず基本情報技術者試験から受験することをお勧めします。しっかりとした基礎を身に付けることにより、その後の応用力の幅が格段に広がります。
という事で、基本情報技術者試験の対象者像は「高度IT人材となるために必要な基本的知識・技能をもち、実践的な活用能力を身に付けた者(IPA(情報処理推進機構)公式サイトより引用)」とされています。基本情報処理技術者はシステムエンジニア、プログラマの登竜門、キャリアのスタートラインに位置づけられた試験です。これからITエンジニアを目指す方は、ぜひ基本情報技術者の取得を目標としてみて下さい。
3.基本情報技術者試験の学習方法と学習時間
だいたい100時間、3か月くらいの勉強時間が目安とされているようです。基本的にはテキストを繰り返し読んで理解し、問題集に取り組むというのがパターンでしょうか。
ここで、高難易度試験に数多く合格した筆者の考える一番効率の良い学習方法をお伝えしたいと思います。
資格試験と名のつくものの必勝法はと言えば、「過去問の徹底演習」。試験制度が大きく変わる年を除き、「過去問をテキストの一種として捉え、問題を解いて間違った所を学習する」というルーティンを繰り返し行いましょう。これは超難関資格試験の合格者が必ず行う学習法(試験攻略法)なのです。
テキストを何度も繰り返し読む必要はありません。むしろ過去問重視、過去問で解けない問題だけテキストを見るぐらいでも構いません。基本情報の、特に午前に関しては7割近くが過去問の類題が出題されています。
また、午後の問題についてはまったく同じ問題は出ていないまでも、過去問でアルゴリズムやプログラムを何度も繰り返し解く事で自然と解法が身に付きます。
4.例題(過去問)を見てみましょう
午前問題から3問記載しておきます。どのような問題が出題されているのかという参考にしてみて下さい。
第1問 (平成31年度 春期 第1問)
10進数の演算式 7÷32 を2進数で表したものはどれか。
ア 0.001011 イ 0.001101 ウ 0.00111 エ0.0111
第2問 (平成30年度 秋期 第6問)
クイックソートの処理方式を説明したものはどれか。
ア 既に整列済みのデータ列の正しい位置に、データを追加する捜査を繰り返していく方法である。
イ データ中の最小値を求め、次にそれを除いた部分の中から最小値を求める。この操作を繰り返していく方法である。
ウ 適当な基準値を選び、それよりも小さな値のグループと大きな値のグループにデータを分割する。同様にして、グループの中で基準値を選び、それぞれのグループを分割する。この操作を繰り返していく方法である。
エ 隣り合ったデータの比較と入れ替えを繰り返すことによって、小さな値のデータを次第に端の方に移していく方法である。
第3問 (平成28年度 春期 第39問)
公開鍵暗号方式を採用した電子商取引において,認証局(CA)の役割はどれか。
ア 取引当事者間で共有する秘密鍵を管理する。
イ 取引当事者の公開鍵に対するディジタル証明書を発行する。
ウ 取引当事者のディジタル署名を管理する。
エ 取引当事者のパスワードを管理する。
<回答>
第1問:ウ
第2問:ウ
第3問:イ
5.情報処理技術者試験に合格すると評価されるか
一方で、こんな意見をよく聞きます。
・情報処理技術者試験は免許をもらえる類の試験ではなく、ただの評価試験だ。
・「プロジェクトマネージャ試験」の合格者がプロジェクトマネージャの仕事に就けるわけではない。
・試験に合格していないけど、優秀な人は周りに沢山いる。
・実務では役に立たない。試験勉強するより、現場で経験すれば何倍もスキルが身に付く。
・試験の内容が古臭い。ITの業界は日進月歩で日々トレンドが変わっている。
いずれも一理あると思います。一方で、ITProによると基本情報技術者は読者の6割弱が保有し、受験を推奨する企業が多いのも事実です。では、上記のような意見の多い試験を、企業はなぜ推奨するのでしょう。
・試験に取り組む姿勢を見る
・職種への適性を知る
・IT分野に対する普遍的な基礎力が付く
・スキルを身につける指標になる
理由としては上記のような事が考えられます。
IPAはITスキル標準という、ITエンジニアのスキルに対する「ものさし」を作っています。情報処理技術者試験は、その「ものさし」に対してどれぐらいの位置にいるのか、という事を測るのに適した試験となっているのです。
しかし、ここで言う「スキル」は「実力」とイコールでは無い点に注意が必要です。あくまで、知識として持っているというだけで、その知識を活用できるか、という点が本当の実力になります。
このギャップが、「実務では役に立たない」という意見に繋がってしまうのだと思います。
という訳で、結論としては
試験に合格すれば企業からは評価される。しかし、合格後にそのスキルを活かせなければ評価が下がる可能性がある
という所でしょうか。
ちなみに、エクステックの評価制度はITスキル標準に近い形で制度設計されており、情報処理技術者試験を推奨しています。しかし、スキルをメインにした制度から「コンピテンシー(行動特性)」、「成果」、「成長性」といった、個人個人の多様性を重視した制度設計への見直しを検討しています。
試験合格者へは、その「行動(=努力)」を評価し、身に付けたスキルを活用できる(=実力を身につける)ための、教育体制を作っていく事が、この試験を活かすために重要だと考えています。